神保町のまちづくりをどうしたらよいか、ダイバーシティにどう取り組むか? ― 高山本店4代目社長、高山肇さんに訊く

松村愛子(3年)

7月20日のゼミでは、高山本店4代目社長の高山肇さん(元千代田区議会議員)、神保町地区地域コミュニティ活性化委員会・委員長の青野芳久さん、千代田区神保町出張所長の武笠真由美さんにお越しいただきました。

お話しされる高山本店4代目社長、高山肇さん

まず、3名の方から講義形式で「神保町の魅力と課題」について伺った後に、3班に分かれ個別にインタビューをさせていただきました。今回は高山さんに「神田古書センター設立」「古書店と神保町」「まちづくり」「バリアフリーを促進する神保町」についてお伺いしましので、それを記事にさせていただきました(青野さんへのインタビューの記事はこちらから読んでいただけます。武笠さんについても順次、掲載させていただく予定です)。

神保町駅すぐの神田古書センター。1Fが高山本店。2Fにカレーの名店、ボンディがある。

神田古書センター設立

まず始めに神田古書センター設立についてお伺いしました。50年ほど前に木造住宅を建て直しした際に神田古書センターは立ち上げられました。当時、ゼネコンから一階を書店にし、2階以降をオフィスにしたほうがいいと提案されましたが、高山さんは他県からの古書店進出の可能性を考慮し、また神保町のありようを見越して神田古書センターを建てたそうです。街の行く末を見据えて神田古書センターは昭和53年(1978年)2月11日に開店しました。

また開店する際に、イギリスに2年ほど留学した時のロンドンで食べたカレーを忘れられず、インディラの村田さんに神保町への出店を頼み込んだそうです。その結果、現在は、神田古書センターの2階にカレーの有名店であるボンディがあります。その当時、現在では3つ開通している地下鉄は1線(三田線)のみ開通していました。神保町を取り巻く交通の便も約40年で大きく変わったのです。

さらに、街を作っていくうえで重要なのはビルのオーナーの「思い」であると強調されました。「このようなお店をやりたい。」「こういう街にしたい。」というビジョンを持つことが大切だということです。街に対するビジョンは街の発展に結びつく、このビジョンを持ち続けることは、どの分野においても発展していくために必要なことだと感じました。

高山本店の入り口

古書店と神保町

次に古書店についてお伺いしました。神保町は、古書店総数が少ないときは80軒ぐらいしかなかったそうです。しかし、現在では神保町の古書店は130店舗ほどまで増えてきました。その要因としては、逆説ながらインターネットが普及したことです。そして、その結果として家賃が安い裏道のビルの中にもお店を開く事が出来るようになりました。

インターネットの普及により百科事典、辞書など資料やリファレンス的なものは価値が少なくなりました。Googleで検索すればよくなってしまったからです。逆に1冊しかないもの“only one” が売れるようになったそうです。これは例えばマニア向けの本、作家が書いた手紙などで、これらの価値はとても高くなったそうです。また、インターネットの普及により海外から注文を受けるようにもなったと高山さんは話しました。

ネット社会になったことで、お店の大きさに関わらず、古本の在庫などを検索することができるようになりました。古書店をどこでもいつでもオープンできるようになったのです。ネット社会は、悪い面だけではなく、人をつなげてくれる良い面もあるようです。

さらに、新型コロナ禍で神保町の古本屋街に足を運ぶことの出来ない人たちのために、「BOOK TOWN じんぼう」というサイトを立ち上げられました。ここでは、360度パノラマ写真により店内を眺めることができますのでぜひ見てみてください。時代の流れに合わせた技術で神保町古書店の魅力を発信し続けています。

街の再開発

次に神保町の再開発についてもお話を伺いました。今、千代田区は再開発に取り組んでおり、神保町も対象になっています。街づくりのうえで大切なのは人々の記憶に店が残ることだといいます。というのは、歩道からアクセスできる路面店ではなく、店舗がビルの奥に入ってしまっているお店はなかなか人々の記憶に残らないからです。それは今の神保町のあり方と大きく異なってきてしまいます。

そのために、神保町の開発では、一階の路面は商店にし、機能の面を重視するべきであり、採算性だけを考えるのではなく地元の商業文化を残せるようにすることが必要と話します。
しかし、年々、土地の価格が上がっているため、家賃の問題が課題に挙げられます。街づくりにおいて家賃は議論されていないそうですが、「家賃に焦点を当てることは今後、神保町が「物語のある街づくり」を進められるかどうかに関わってくる」と高山さん。開発は、街とともに進められる、それを強く感じました。

バリアフリーを促進する神保町

「障害者の方も健常者の方と同じように神保町を楽しんでほしい。」
高山さんは、バリアフリーの重要性についても語りました。安心して街に来られるインフラを整備することは、必要不可欠であり、商店街の使命であると話し、障害者トイレ設置を促進されています。

さらにインフラを整備する際には「行政だけではできない、商店街がやらなければいけない」とおっしゃっておられました。街づくりは、住んでいる人が率先して行動に移すことが、街の発展につながると感じました。

今では、高山さんの思いに賛同してくれた銀行や店舗が障害者トイレ設置を案内しているそうです。そして、バリアフリーを促進するチャンスとなるのが、パラリンピックです。残念ながらコロナ禍により、無観客での開催ですが、パラリンピックを機にバリアフリーの整備することで、より多くの方が神保町に足を運んでくださる機会が増えます。多くの方のニーズに沿った街づくりを進めるきっかけに、パラリンピックは重要だそうです。

さらに、子育てが楽しいと思える街も目指していると述べました。北沢書店のbookcafeで親子対象の演奏会を行ったそうです。それがとても良かったそうです。「子どもに優しい街にしたい」と語られました。「社会性・公共性を商店街の街づくりの中に取り組んでいくことがこれからの街づくりにポイントだ」と高山さんが言うように、今後誰もが楽しめる街づくりを考え、行動することが大切なのだと思います。

最後に

高山さんが「子育てが楽しいという社会を作りたい」と語られたのが、印象的でした。高山さんの言葉は、神保町の街づくりだけではなく、日本の街づくり、さらに日本社会が抱える問題を的確に指摘しており、街づくりから見える日本の課題を改めて考えさせられました。

誰もが「楽しめる街」、ハンディキャップを持った方でも楽しめる街づくりは、今後の「街づくり」において重要になっていくと感じます。街も人も多様性に富んだ社会を築き上げるために、私たちは学び続けるのだと思います。

高山さん、この度はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございました。

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