「これからのコーヒービジネス」(石脇智広さん、石光商事(株)代表取締役社長)

白鳥真菜(3年)、矢島大地(3年)

1月19日、石光商事(株)の代表取締役社長、石脇智広さんをゲストにお迎えし、オンラインセミナーを行いました。石光商事(株)は、主にコーヒー・飲料事業や食品事業、海外事業などを展開する専門商社です。石脇さんは入社から社長就任まで一貫してコーヒー研究を続け、コーヒーが美味しい理由、不味い理由を明らかにし、美味しいコーヒー作りに励んでこられました。

そうして培った知識や経験を元に、『コーヒー「こつ」の科学』などの著書も出版されています。また子供向けのコーヒーイベント開催、タイ王室メーファールーアン財団コーヒーアドバイザーとしての活動など、多岐に渡りご活躍されています。現在は社長に就任し、「ともに考え、ともに働き、ともに栄えよう」という経営理念の下、会社を経営。そんな石脇さんに、セミナーの事前に質問をお送りし、「これまでのコーヒービジネス」「コーヒー産業の課題」「石光商事の取り組み」などについてお話ししていただきました。

Zoomでお話しいただく石脇社長。緊急事態宣言のためオンラインでの開催となりました。


(石脇社長の書かれた著作「コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために」。コーヒーの味を科学的に深く知ることができる1冊)

これまでのコーヒービジネス

まず、これまでのコーヒービジネスについて伺いました。

コーヒー業界には3度のブームがありました。第1期(ファーストウェーブ)は高度経済成長期の喫茶店ブーム。そして第2期(セカンドウェーブ)はスターバックス、タリーズなどが主導したブームです。最後に第3期、ブルーボトルコーヒー浅煎りのコーヒーと、1杯100円「コンビニコーヒー」の台頭です。このコンビニコーヒーが、業界全体に大きな影響を与えたと石脇さんは語られました。1杯100円で、あそこまでの鮮度とクオリティのコーヒーが飲める。これがコーヒーを買い、飲む上でのひとつの物差しになったのです。だからこそ、それに対抗できる付加価値をどうつけていくかが重要だとおっしゃっていました。

コーヒー産業の課題

次に、コーヒー産業の課題についてお聞きしました。

一つは価格の大きな変動。コーヒー相場が下落したことで一時的には利益がありました。しかし、それでは生産者が美味しいコーヒーを作ることはできません。品質低下、生産量減少により相場価格が高騰しました。結果、「高くておいしくない一杯」が出来上がってしまったのです。

そして国内コーヒー市場の飽和。喫茶店ブームが過ぎてから喫茶店の数、一店当たりのコーヒー使用量は大きく減少し、家庭用販売やネット販売など時代の変化にどれだけ対応できたかでコーヒー屋の明暗が分かれたそうです。

様々な変化のあったコーヒー業界の中で、「適応力の低さは致命的」であったと身をもって感じたとおっしゃっていました。

石脇さんの「常に変化していくことが、変わらない存在で居続けるためには必須」という言葉がとても印象的でした。

これからのコーヒー産業にも、人口減少、超高齢化の社会、地球温暖化からくる環境破壊など、様々な問題が突きつけられています。これらに対し、会社で、コーヒー産業全体で、どう対応していくか。サステナビリティにどのように取り組み、役割をはたすかがますます求められていくとおっしゃっていました。

社会的価値を生み出す、石光商事(株)の取り組み

石光商事(株)の現在の経営計画のテーマは「経済的価値も、社会的価値も」です。売り上げを上げる、利益を上げるだけではなく、「1杯のコーヒーから作る幸せ」を考え様々な取り組みをされています。

価格変動への対応

前述したように、コーヒー豆相場が高騰した際、安い原料に切り替えることで売値を維持するという問題がありました。そこで石光商事(株)が行なったのは、「技術によって」味の変化を最小限に抑えるという取り組みでした。

例えば、日本航空の機内で提供するコーヒーに対し、石光商事(株)が行なったのは「ブレンドの最適化」です。

ブラジル50%/コロンビア30%/エチオピア20%のような固定した配合で商品を作るとすると、コロンビアのコーヒー豆の価格が高騰した時に商品の原価が跳ね上がってしまいます。そうならないために、「最初に決めた風味は絶対に維持するから、ブレンドの配合はこちらで決めます」というのがブレンドの最適化だそうです。

また、「粉砕の最適化」も行われました。コーヒーは、粗く挽くと出が悪いが美味しい。逆に細かく挽くと出は良いが味が落ちます。粉砕の最適化 = ベストポイントを計算で求めることで、風味を損ねず無駄がない挽き具合を実現できるのだそうです。

これらの方法により、価格変動に対応していったそうです。対企業だけでなく、どんな状況であっても買い続けることで生産地との信頼関係も強化できたといいます。コーヒービジネスを長く続けていくためには、生産とのパートナーシップがお互いにとってとても大切なことだとおっしゃっていました。

喫茶店復興の活動

喫茶店を朝早くから営業し、高齢者のコミュニティとして活用する提案や、コーヒーの抽出粕を捨てずに再度焙煎する、資源の有効活用の提案。また、設備と時間を持て余している焙煎業者にも、「美味しいコーヒーを高くてもいいから飲みたい」というニーズに応えられる可能性を見出し、働きかけをしているそうです。

人口問題への対応

高齢化が進む世の中ですが、「どうせ長生きするなら寝たきりではなく、いつまでも元気で楽しく生活してほしい」と語る石脇さん。シニアの方々向けにコーヒー教室を展開し、自分で焙煎やブレンドをしてもらうなど、「コーヒーを生涯学習のツールに」する活動を盛り上げています。

このように、1杯のコーヒーから様々な付加価値を作り出すビジネスを展開していることがわかります。

自分たちの持っているノウハウやネットワークを組み合わせ、どのように世の中の「困った」を解決できるのか。そうしたアイディアを出し合い、もっと新しいことをしようと会社全体で取り組まれているそうです。

「モカが消えた!」 安心 ≠ 安全ではない世の中

次に、2008年の事件についてお話しくださいました。

その年、最貧国の一つであるエチオピアからのコーヒー豆から残留農薬が出て、日本の市場からモカ コーヒーがなくなりました。事件の原因は残留農薬の存在ではなく、農薬に対する誤解が真相でした。

当時は、エチオピアの中では、コーヒーが最大の外貨獲得手段であり、そして日本が最大の取引先でした。しかし、環境残留性の高い農薬であるDDTが見つかり、日本は取引をやめました。ここには二つの問題が隠されているのです。農薬は本当に危険なのか、そして農薬はどこから来たのか、以上を石脇さんが詳しくお話くださいました。

農薬の安全性について

農薬は、市民が思うより安全性が保たれています。がんの疫学者によれば、農薬によってガンが引き起こされるとは考えておらず、むしろ普通の食べ物の方が引き起こす可能性が高いと考えています。

また、食品衛生法によれば、コーヒー(生豆)の農薬の基準値は各項目0.01-0.1ppmです。(これは石脇さんによれば、「中国国籍の方から習近平氏を探す」ことと同じことくらいの規模だそうです。)さらに、農薬は焙煎によってより減少します。基準値がその量であれば毎日一生摂り続けても問題がないと考えられている濃度の1/100程度で設定されていること

このことから、農薬の安全性は保たれているのにもかかわらず、設けられた基準は安全とは無縁であり、根拠のない情報が農薬を危険とみなしているのです。

農薬はどこから来たのか

最貧国のエチオピアは農薬を買うような経済力はありません。では、DDTはどこから来たのでしょうか。

1990年代に日本を含めた先進国から発展途上国にDDTが持ち込まれたのです。DDTが環境残留性の高い農薬と分かった先進国は、発展途上国にお金を渡して引き取ってもらったのです。

そして年月が経ち、2006年にDDTがマラリアに有効であることをWHOが発表しました。エチオピアを含むマラリア汚染地域では蚊を退治するために家の周りにDDTを撒きました。しかし、日本におけるコーヒーの禁輸をきっかけにDDTの使用を禁止したのです。

この事件をきっかけに、農薬検査用のラボがエチオピアに設置され無駄な出費と手間がかかり、さらにマラリアが蔓延することにより最貧国はより苦しめられています。

石脇さんは「安全を確保できても、安心が確保できない」とおしゃっていました。私たち消費者の無知や無関心や誤解から生じる不安を、他人のせいにしている部分があるのです。

正しく知るという主体性がなければ、誰かの命を奪うことにつながってしまう。私たち消費者はこれを考え続けなければならないと思いました。

コーヒー 美味しさの「こつ」

次に、コーヒーの美味しさの「こつ」についてお話くださいました。キーワードは、「やきたて、ひきたて、淹れたて」です。

ですが、自宅では挽きたてからです。自宅では豆から挽きます。挽く時は、粗挽きの方が香りをよく感じます。濃く淹れてお湯で調整した方が、毎回、同じ味を楽しめるようになるそうです。

最後にいくつか追加の質問に答えてくださいました。

「経済的な支援以外に、支援方法はありますか。」

石光商事(株)さんは、経済的な支援以外にも、技術的な支援をしていきたいと考えています。以前に、タイの支援団体が、「貧しい人たちに魚をあげても仕方ない。魚の取り方を教えてあげなくてはならない。」とおっしゃていたそうです。与えるだけではなく、一緒にコーヒーを作っていくという姿勢で技術支援を実際に行っています。

「石光商事(株)さんの売上の大部分は何が占めていますか。また、コロナ禍によりどのような影響がありましたか?」

石光商事(株)さんでは、規模ベースだと食品が7割を占めていますが、利益ベースとなると、輸出が一番利益がいいです。コロナ禍に入り、家庭消費ができるインスタントラーメンのようなわ本の食品が売り上げを上げたそうです。

「全体的に見ると、コロナ禍からコーヒービジネスにいい影響または悪い影響のどちらが出ましたか?」

石脇さんによれば、コーヒービジネス全体で見ると、コロナの影響でプラスになっているそうです。飲食店などの外出によるコーヒー需要は減りましたが、家庭用のコーヒーが増大したことが原因といっています。

最後に

お話を通して、コーヒービジネスは多くの社会課題と密接に関わっていながら、多くの可能性を秘めていると感じました。コーヒーが気軽に飲める幸せがずっと続くには、コーヒービジネス全体のサステナビリティを考えなればなければなりません。

また、そのコーヒーをいただく消費者の方達にも確かな情報を知ってもらうことが大事であると思いました。私たちのコーヒープロジェクトでも、データに基づいた確かな情報を届けていきたいと思います。

石脇社長、緊急事態宣言下のためオンラインでのセミナーとなってしまいましたが、お忙しい中大変貴重なお話ありがとうございました。今後もお話をお伺いできることを楽しみにしています。

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