「ソーシャルグッドロースターズ千代田 – コーヒーと福祉と街づくりと」 (坂野拓海さん(一般社団法人ビーンズ代表理事))インタビュー

石田就人(4年)

坂野さんを囲んで

11月18日、神保町にある珈琲焙煎所および福祉施設でもあるソーシャルグッドロースターズ千代田を運営する一般社団法人ビーンズ代表理事の坂野拓海さんにゼミ生たちでインタビューをさせていただきました。今回のインタビューの目的は、「コーヒーと福祉」という一見、不思議にも思える組み合わせから街づくりとコーヒーの多様性を考えるというものでした。

坂野さんへのインタビューでは大きく次の3つのテーマ、「坂野さんご自身のキャリアについて」、「ソーシャルグッドロースターズについて」、「コーヒーに対するこだわりついて」についてお聞きし、その上で最後に千代田区との関わりについてお伺いしました。

坂野さんご自身のキャリアについて

まず、坂野さんご自身のこれまでのキャリアについてお伺いしました。坂野さんは現在、福祉施設の運営などを行っている一般社団法人ビーンズの代表理事で、ソーシャルグッドロースターズの設立者です。ただ、この会社を創業し、福祉の世界に入る前は経営コンサルタントとして働いておられました。その会社で障がい者の方の採用を経験されたことがきっかけで、様々な障がいを持った方々と出会うようになったそうです。そして、社会的に大きな問題でもある障がいのある人と、そうでない人の接点の少なさに目が向くようになり、一般の社会人や学生と障がい者(児)との接点をつくるボランティア活動を自身で立ち上げ、それがきっかけで今の一般社団法人ビーンズを設立しました。

その後、「障害のある方の働く選択肢を増やしたい」という想いから、ソーシャルグッドロースターズの設立に繋がったということでした。そこで次にソーシャルグッドロースターズについてお伺いしました。

ソーシャル・グッド・ロースターズについて

上で述べたような経験をする中で、コーヒーが人との接点を多く生み出すことができると考え、2018年7月にソーシャルグッドロースターズの設立に至ったそうです。

ソーシャルグッドロースターズは純喫茶の街でもある神保町の珈琲焙煎所でもあり、就労に困難を抱える障がい者の方が支援を受けながら、働いて成長することができる福祉施設でもあります。お話を聞きながら、これまでコーヒーの仕事をしたことが無かった方が、あこがれからバリスタや焙煎士という仕事に挑戦し、成長され楽しく活躍しておられるということが、「珈琲と福祉」から生まれる大きな魅力であると思いました。

さらにソーシャルグッドロースターズでは、一般社団法人ビーンズの一つの理念でもある「Leave No One Behind(誰ひとり取り残さない)」を大事にし、コーヒーを通して、利用者が自信と誇りを持てる職場環境や「作業」ではなく自分の「仕事」を体感できることを大切にしているということも印象的でした。

実際、私自身も個人的にソーシャルグッドロースターズにお伺いし、障がい者の方々が働く様子を拝見させていただきました。その際に、生産者から仕入れたコーヒーの生豆をハンドソーティング(欠点豆除去)、焙煎、パッキング、そしてハンドドリップをしてお客様に提供する中で「仕事」に自信を持って働かれている姿を目にして強く印象に残りました。

また、ソーシャルグッドロースターズは障がい者の方と私たちが出会えるオープンな場として、商品の売り上げの一部をコーヒー生産地や被災地などに送ることで、社会貢献活動にも尽力されているとお伺いしました。この「コーヒーと福祉」という組み合わせが、障がい者の方の仕事を生み、さらには私たちや海外の方とを繋ぐ「ボーダレスな空間」を生みだせる可能性があるということを考えさせられました。

一つの社会モデルとして、「障がいは周囲の環境から生まれる」というお話を今回坂野さんはされており、コーヒーの仕事を通じて障害のある無しに関わらず誰もが活躍できる職場をつくり、また、コーヒーを通じて障がい者と私たちが繋がることのできる機会を私たち自身が増やしていくことが重要ではないかと思うようになりました。

 

コーヒーに対するこだわりについて

次にソーシャルグッドロースターズでは、こだわりを持ったコーヒー豆やコーヒーを提供しておられるので、ソーシャルグッドロースターズのコーヒーについてのお話をお伺いしました。

まずソーシャルグッドロースターズで扱うコーヒー豆は「オリジンコーヒートレーダーズという会社と連携して仕入れているとのことでした。オリジンコーヒートレーダーズとパートナーを組んでいる理由としては、この会社が支援を必要としている農園からコーヒー豆を購入することを大切にしていて、ソーシャルグッドロースターズの社会貢献活動に繋がることが大きいという話をお聞きしました。このことは、「コーヒーの生産者から仲介業者、私たち消費者、そしてまた生産者へ」と繋がる良いサイクルを生み出しているのではないかと私は考えます。

通常はスペシャリティと呼ばれる収穫されたなかで一部の品質が高いコーヒーばかりが脚光を浴びていますが、そうでない品質のものも農村にとって生活のための大事な収益源になっており、スペシャリティコーヒーから取り残された豆も適正な価格で買取りを行っているとのことでした。つまり、オリジンコーヒートレーダーズは利益よりも、まずは「生産者のために」ということを大事に考えており、ソーシャルグッドロースターズの考えに近い事から取引を始めました。

ただ、コーヒーを扱う難しさとして、坂野さんは世の中にコーヒーはありふれているなかでいかに自分たちがやっていることの価値を伝えていけるか、ということが課題だとも指摘されました。そのなかの一つの取り組みとしてソーシャルグッドロースターズでは「ブレンドコーヒー」にこだわっているということでした。 すべてのコーヒー豆には味や風味が異なる銘柄。つまりは人間でいう個性があるからこそ、その個性を活かすということを通じてソーシャルグッドロースターズの理念を伝えていきたいという話から、今後のコーヒーを勉強し、関わっていく上では、「何が大きな売りになるのか」が大切であると思いました。

インタビューの最後に、千代田区にある福祉施設ということから、ソーシャルグッドロースターズと千代田区にどんな関係があり、今後の展望などについてもお話をお伺いしました。

元々ソーシャルグッドロースターズが千代田区神保町付近に設立された理由としては、カフェの街であるからということではなく、これまで千代田区には精神障がい者を対象とした就労支援施設が無かったという背景があり、地域で必要な福祉サービスを考え、どのような仕事があればいいかを話し合う中でソーシャルグッドロースターズを設立することが決まったそうです。

施設では、こだわった焙煎機の導入などを行い、より質の高いコーヒーをソーシャルグッドロースターズでは提供され、さらには、他の喫茶店との連携もあるということでした。

さらに、そうした「珈琲と福祉」の組み合わせとしては、千代田区だけでなく、企業などからも現在注目されていて、障がい者の方の雇用の選択肢を広げていければいいなと私自身思いました。

今回のインタビューを通して、私が最も印象に残ったのが、坂野さんご自身が目指す「障がいの有無の関係のなく誰もが活躍できる社会」という言葉です。

「珈琲と福祉」というものは一つの例として、その他にも人が主役となり、社会全体で生産性を伸ばしていける社会をつくっていかなければならないと強く感じました。

改めまして、お忙しい中、お時間を作っていただきインタビューさせていただき、ありがとうございました。

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