知られざるアフリカの妊産婦事情 ➖ 藤田由布医師のニジェール体験記

アフリカの中でも医療体制は国によって大きく異なる。写真は特に充実した医療体制を持つケニアの病院

中川ちさと( 2年)、内田大輝(2年)

今回は特別企画として、明治大学 国際日本学部の 岸ゼミと島田ゼミの合同で近畿大学婦人科教室の藤田由布医師にお話をお伺いしました。

アフリカの妊産婦事情

アフリカの出産事情は日本と大きく異なっています。一夫多妻制度や法律の違い、様々な要因から初産の平均年齢は13歳くらいです。かなり深刻な状況であることが分かります。

「アフリカの人たちがどうして子供を多く生むか知っていますか?」藤田医師にそう質問された私たちは答えをお聞きした時、とても驚いた。労働力を確保するために子供を産むということなど今までに想像したこともなかったからである。家から離れた水汲み場まで何度も往復して一日を費やしたり、毎日やらなければならない大量の家事を任せたりするために出産をするのである。アフリカで一夫多妻制が主流なのは子供を多く出産するためであるのが理由のひとつでもある。

また、藤田医師は、一夫多妻制の妻は実際のところこの制度をどう思っているのか、について次のようにお話された。嫉妬などをする人もいるが、ほとんどの女性は家事が分配されて楽になるからありがたい、と思っているとのこと。日本と異なる社会のあり方を知れて、驚くとともに関心が高まった。

寄生虫「ギニアワーム」について

次に藤田医師は「天然痘は人類が根絶させた唯一の感染症だけど、次は何になるか分かりますか?」と質問を我々に投げかけた。

「答えはギニアワームです。これは寄生虫で、水溜まりや池といった水が淀んでいるところに生息しています。」ギニアワームは飲み水から感染し、人間の体の中に入った後は下肢に留まる。ギニアワームに寄生されて、人間が死ぬことは稀だが歩いたり、働くことは困難になる。安全な飲料水を確保しにくいアフリカでは感染率が非常に高く、皮膚の下に浮き出たワームを引き抜くことで治療が出来るが、引き抜く際に激痛が走るため放置されることが多いという。

「ギニアワーム感染者を治療するためにはまず、痛みで逃げ回る患者を捕まえなければいけません。」実際の治療中の画像を私たちも見せてもらったが、苦悶の表情を浮かべる患者ばかりで直視することはできなかった。

淀んだ水溜まりに近づかないように絵で説明するも、上手く伝わらないことが多いため、音楽と踊りでなんとかギニアワーム予防を広めていきました、と藤田医師も情報をいかに伝えるかに苦労していたようだった。

藤田医師を含め多くの医療関係者がギニアワームの撲滅に時間と労力をかけ、絶滅まで秒読みといったところまでたどり着いた。

子宮頸がんワクチンについて

最後に世界一の長寿国である日本も医療に関する大きな問題を抱えている。そんな問題を藤田医師は指摘した。それは先進国の中での「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)」の接種率の圧倒的な低さだ。子宮頸がんは一般に性交渉によるヒト・パピローマウイルス(HPV)への感染によって形成されるがんであるが、ワクチンの感染予防効果は極めて高くほぼ100%予防できるがんとされていて、先進国のほとんどが接種率70~80%にのぼる。しかし日本の接種率は現在1%にも満たない。なぜここまで接種率が極端に低いのだろうか。

かつては日本でも接種率は約7割と高いものだった。だが2013年ごろからワクチン接種後の「多様な症状」が繰り返し報道され、厚生労働省は積極的な推奨を差し控えるようになってしまったのである。日本では毎年、約1万人が子宮頸がんと診断され、約3000人が命を落としているが、今後患者はさらに増えていくことが予想されている。

男性もこのワクチンを打つことでHPV感染予防ができるため世界のほとんどの国は接種対象に男性を含むにもかかわらず、日本の接種対象は女性のみ。しかもこのワクチンをHPVワクチンではなく子宮頸がんワクチンと呼ぶのも日本だけである。

「みなさんに考えて欲しいのです。なぜ世界中で日本だけが女性だけが子宮頸がんワクチン接種の対象になっており、さらにその女性の接種率も1%未満であるか。なぜ日本だけがこのワクチンのことを『子宮頸がんワクチン』と呼んでいるのでしょうか?日本以外の世界では、『HPVワクチン』といって、男性も女性も平等に接種しているワクチンです。男性が打つのは、肛門癌、陰茎癌、中咽頭癌を予防でき、自分のパートナーの命を守ることができるのです。なぜ、日本人だけがこの事実を知らされずにいるのか?私には理解できません。」藤田医師はHPVワクチンにまつわる現状について私たちに警鐘を鳴らしてくれた。

今回はアフリカの保健医療の現状と、そして、その対局にある日本における課題についてお話をお伺いしました。大阪からオンラインで、岸ゼミの中野キャンパス、島田ゼミの和泉キャンパス(2年)とつないでお話をいただき本当にありがとうございました。

 

藤田由布医師プロフィール(近畿大学産婦人科教室)

幼いころから開発途上国にかかわる仕事に興味を抱き、大学卒業後、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ。現地の仲間たちと感染症に関する活動に取り組む。その後アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳の時にヨーロッパで医師に。日本でも医師免許を取得。さいたま赤十字病院、淀川キリスト教病院、大阪なんばクリニック婦人科 医長を経て、現在近畿大学付属病院 産婦人科教室 医師

 

岸ゼミについて

岸ゼミは、学生それぞれの興味に合わせたテーマで実践的なワークショップやイベントを企画開催し、人や社会に変化を生み出せる学習環境のデザイナーを目指している。社会構成主義の考え方に基づき、それぞれの個性に合わせた活動を大切にしているため、活動内容や進め方、アウトプットの方法は学年や人ごとに全く違う。

現在3年生はそれぞれの興味に合わせた教材開発、4年生はワークショップの開催や卒業研究の準備を行っている。

by
関連記事