インタビューNO.3: ホンジュラスの生産者と歩む (今井英里さん、カトラッチャ珈琲焙煎所代表(愛媛県大洲市)、元ホンジュラスJICA海外協力隊)

羽根田宙佳(4年)

カトラッチャ珈琲焙煎所の店舗

7月28日のゼミでは愛媛県大洲市でカトラッチャ珈琲焙煎所を営む今井英里さんにインタビューさせていただきました。オンラインで愛媛にいる今井さんをつなぎ、最初はLIVEで焙煎所の周りの環境や、焙煎小屋、そしてお店の中などをバーチャル・ツアーで案内していただきました。その上で、事前にお送りした質問に答えていただく形でお話を伺いました。

カトラッチャ焙煎所について

現在、今井さんが営まれているカトラッチャ珈琲焙煎所は愛媛県大洲市の川のほとりにあり、昨年8月に開店されました。開店時には、70人ほどの人が集まり記念のテープカットをされたそうで、その時の様子を懐かしく語っておられました。同じ建物の中には、豪雨被害の復旧ボランティアへの参加が縁となって、知り合った酒屋さんがあり、同じ建物内にコーヒー屋さんと酒屋さんがあるという珍しいスタイルになっています。

その同居されている酒屋の酒乃さわださんにもお話を伺いました。酒乃さわださんは店頭にお酒を並べない(温度管理された場所でお酒は管理されている)という画期的な販売方法をとっていて、率直に驚きました。理由を店主さんに尋ねると、「酒の品質管理の方法としてこれが一番適しているし、この方法だと地方ではオンリーワンになれるしナンバーワンになれる」と仰っていて、チャレンジ精神溢れる熱意の持った方だなという印象を受けました。今井さんが酒乃さわださんをビジネスパートナーともいうべき存在として選び交通の便の良い都市部ではなく自然豊かな地方を出店場所として選んだのは、地方でオンリーワンかつナンバーワンを目指すという酒乃さわださんの店づくりの精神に共感されたのも大きいのではと感じました。

 

教師の夢から

もともと今井さんは小学校の先生になることが夢で、大学の教育学部に通われていたそうです。そして、今井さんの人生の転機となったのが、大学3年生の時の教育実習でした。その教育実習で「場面寡黙症」の児童と出会ったことがきっかけで、自身の育ってきた環境がいかに恵まれていたかということを知り、色々と思い悩むことがあったそうです。その出会いを経て、今井さんはもっと自分は苦労を知る必要があると思い、苦労をしる=海外で修行するべきという感じ、大学4年生の時に青年海外協力隊に応募されたとのことでした。

そして、無事青年海外協力隊に参加できることが決まったものの、派遣先が縁もゆかりも名前も知らないホンジュラスという国になってしまいました。今井さんは派遣先の情報を得るために、まずGoogleでホンジュラスについて調べたそうですが、検索候補に「ホンジュラス 治安 最悪」と出たり、殺人率ランキング世界No.1などネガティブな情報ばかり得られて、「そんなところ行くんや、怖いな」ととても不安な心境になったとのことでした。しかし、大学の所属するゼミの先生に相談したところ、先生から「そんなの行ってみないと分からないじゃん」と後押しの言葉をいただき、その言葉を信じてホンジュラスへの渡航を決心したそうです。

 

カトラッチャ珈琲焙煎所内にてコーヒー豆と共に

いざ渡航してみると、ホンジュラスの人々は人懐っこくて穏やかな国民性だったととても安心したそうです。派遣先のホンジュラス・ラパスの小学校では算数を教えることになり、帰国後、愛媛で先生になることを目標にしながら、子供たちとの触れ合いを楽しまれたとのことでした。

 

コーヒーとの出会い

今井さんとコーヒーの出会いは、青年海外協力隊でホンジュラス滞在中、偶然訪れたカフェで飲んだコーヒーのそれまで飲んだことのない味に一目惚れしたことがきっかけでした。ちょうど今井さんは支援の資金も限られる現在の協力隊員の立場ではなく、ビジネスをしてホンジュラスと関わって行きたいと考えていたところだったので、この出会いにビジネスの可能性を感じたそうです。この時カフェで会ったコーヒー農家のナンシーさんはのちの今井さんのホンジュラスコーヒーの師匠となる方で、彼女との出会いや彼女の作るコーヒーとの出会いで、あれよあれよという間にすっかりホンジュラスコーヒーに魅了されたとのことです。その結果、今井さんは自身の受けた感動と生産者の情熱を日本に伝えたいと決意して、夢だった小学校の先生の道ではなく、珈琲焙煎所を作ることを決意されました。

しかし、当時の今井さんは販売も経営も輸入の知識も全くなく、文字通りゼロからからのスタートだったと仰ってました。様々なコーヒー屋さんに突撃したり、インターンしたりと紆余曲折を経て、様々な人々の協力もあり、2016年にナンシーさんから690kgのコーヒー豆を輸入することに成功しました。そして、その後、昨年2019年には3000kgのコーヒー豆を輸入するまでになったのです。

今井さんのコーヒー販売では、ナンシーさんのような生産者と今井さんのような小売業者の間に、輸入業者や卸売業者を挟むという従来の方式ではなくて、生産者と直接取引をする文字通りダイレクトトレードを行っていて、従来の方式に比べ、より身近に生産者の声を感じたり、より生産者にお金が入る仕組みになっています。加えて、熱意あるコーヒー生産者と出会うために、ナンシーさんの協力のもと、小規模応援ネットワークというものを築き、美味しい豆を手に入れられるようにしました。そして、何より今井さんのコーヒー販売には情熱を強く感じました。それは今井さんの「出店場所なんて関係ない、情熱があればどこだってお客さんは来てくれる」という言葉に強く表れています。

 

ホンデュラス のナンシーさん、アルトゥーロさんと一緒に

実際開店セレモニーの際にいらしたお客さんの半数以上が愛媛県外から来たお客さんだったそうです。今後も情熱を持った今井さんを応援してくれる人はどんどん増えるだろうと感じました。

 

新型コロナウイルスをうけて

今井さんが焙煎所を開店して、間もなく1年間という時に、突然ホンジュラスのコーヒー農家であるナンシーさんからSOSが届いたそうです。そのSOSは新型コロナウイルスの影響で、収入が減少し、金銭的に苦しいというものでした。そして、今井さんは即座にそのSOSに答え彼らを支援するべく立ち上がりました。

それが『コーヒースペシャリテ』プロジェクトです。ホンジュラスコーヒーと麦焼酎をコラボしたお酒を作り、それを返礼品としてクラウドファンディングを行い、見事目標金額を大幅に超える支援金を集める事に成功しました。この話を聞いて、「遠く離れていても、縁のある彼らを救いたい」という思いを持った今井さんの行動にとても感動しました。

 

さいごに

今回のインタビューを通して、今井さんは”縁”と”アクション”をとても大事にされていると感じました。新型コロナウイルスの影響で金銭的に苦しいホンジュラスのコーヒー農家との”縁”のために、単に優しい言葉や励みの言葉をかけるだけではなく、新商品を開発し、クラウドファンディングをして支援を募り、見事に目標金額を集めるという”アクション”をやってのけました。

お互いに苦しい時だからこそ、”縁”を大切にして、その”縁”を守るために、惜しみなく”アクション”をする。そんな今井さんの人間性に感服して、見習わなければいけないと感じた次第です。

冒頭から今井さんの明るさとマシンガントークの実況中継に圧倒されてしまいましたが、熱意のこもった様々なお話を聞かせていただいて、とても勉強になりました。今井さん、今回はご多忙中のところ、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

 

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