インタビューNo.2: エルサルバドルの生産者とつながるCOYOTEの試み (門川雄輔さん、COYOTE マネージャー、元エルサルバドルJICA海外協力隊)

田口真由(3年)

エルサルバドルのコーヒーを収穫し豆の状況を確認する門川さん

7月14日のゼミではエルサルバドルに青年海外協力隊員として赴任していた門川雄輔さんから現地の生産者とつながったコーヒーの取り組みについてお伺いしました。門川さんはコロナ禍のため帰国して京都におられ、今回はゼミ生とオンラインでつなぎ、事前に私からお送りした質問に答えていただく形でお話を伺いました。

今回のお話を伺う前に門川さんのホームページを拝見してとっても面白かったのですが、一方でどうして日本の会社を退職されてエルサルバドルに行かれたのだろうかと思い、まずそのことから伺ってみました。

 

コーヒーに魅せられてエルサルバドルへ

私の質問に門川さんはオンラインの画面の向こうでやさしく微笑みながら答えてくださいました。門川さんはもともとコーヒーが好きだったそうです。ただ、大学生の時に中南米をバックパッカーとして渡り歩いた際に、訪れたコーヒー農園でコーヒーが植物であること、フルーツのようであることを初めて実感し、そこから深くコーヒーに魅せられるようになったそうです。

その後、大学を卒業された門川さんは小川珈琲(株)に就職され、JCTC(ジャパン・カップテイスターズ・チャンピオンシップ)では決勝まで進まれるほどコーヒーにのめり込まれたそうです。ただ、コーヒーや産地と直接関わる仕事にはなかなか担当して携わることができず、もどかしい思いを抱かれていました。そんな時にJICAの青年海外協力隊の募集のポスターを街角で見かけて、応募することを即決されたのです。研修を受けた後、エルサルバドルのチャラテナンゴというコーヒー栽培地域へ、マーケティング隊員として行かれました。

今回のコロナウイルス蔓延の影響で予定されていた任期より早く日本に戻られることになりました。そして今は既に次に向けて動かれています。それは今年の秋頃から本格始動する予定の、「COYOTE(コヨーテ)」という新規事業です。

そこで、次にエルサルバドルでの活動、そしてCOYOTEについて次にお伺いしました。

エルサルバドルのコーヒーをカッピングして官能検査

 

チャラテナンゴでの学び 

門川さんはエルサルバドルのチャラテナンゴの農園で青年海外協力隊として活動されました。その中で経験されたことや、コーヒー産業の実情についてお話いただきました。

チャラテナンゴはエルサルバドルの北西に位置し、コーヒー栽培に適した気候や土地が広がります。この地で生産されるコーヒーは美味しいにも関わらず、その存在はなかなか知られていないようです。門川さんはその理由の1つとして、バイヤーと農家をつなぐ仕組みや環境が整備されていないことを挙げられました。点在する農家の1つ1つを訪れ、求めるコーヒー豆を探し回るのには大変な労力を要します。美味しいコーヒーがあっても、バイヤーの目に留まらなければ輸出はできません。

 

人々をつなぐ生産者組合

そこでバイヤーと農家をつなぐ橋渡しとして、門川さんが注目されたのが「生産者組合」でした。この地域の生産者組合の代表を務めるのはラウル・リベラ(Raul Rivera)さんで、門川さんのパートナーでもあります。リーダーを務めるラウルさんを筆頭に実績のある生産者が築いたネットワークを生産者組合でシェアすることで、小規模農家さんのコーヒーもサスティナブルな取引のマーケットに乗せることが可能になります。生産者組合の利点を活かして、地域として高品質なコーヒーの流通量を増やすことを目指されました。

これはラウルさんにとっても、自分の農園だけでは十分な輸出量を確保できないという問題を、他の農家のコーヒーとまとめて輸出することで解決できるというメリットがあります。農家側にとっても、ラウルさんの持つ人脈やネットワークを利用して輸出できることや整備された設備を利用できること、またビジネスに関する難しい業務を組合に任せられることがメリットとなります。また双方のメリットとしては、生産に必要なものを組合でまとめて購入し、コストを削減できることなどがあります。

さらに生産者組合が機能することで、バイヤーも買い付けをしやすくなるはずです。様々なコーヒー豆が組合に集まるため、点在する農家を1つ1つ訪れることなく求めるコーヒーを探すことができるのです。

こう考えると生産者組合が機能すればすぐに多くの人が恩恵を受けられそうですが、なかなか組合が拡大しなかったのはなぜでしょうか。門川さんのお話から、その理由はリーダー人材不足にあったと感じました。

 

まだまだ少ない信頼できるリーダー

当初、人々の生産者組合に対する印象は必ずしも良いものではなかったようです。搾取されるというイメージを払拭し、輸出までの工程を適切にこなすようなリーダーが必要だったのです。

この地域の生産者組合の代表を務めるラウルさんは、個々の農家のトレーサビリティー(どの農家で取れたコーヒー豆か分かるようにすること)を保ちながら輸出し、また農園の労働者が多く住む村と良好な関係を維持しながら農園経営を行っているそうです。農園労働者・他の農家・地域の人々のことに目を向けられるラウルさんは良きリーダーとして組合を導いていますが、ラウルさんのような存在はこの地域にまだまだ少ない現状があります。

ラウルさんへの信頼が組合への信頼に繋がり、組合の拡大・発展を促すという構図をお聞きして、信頼できるリーダーの存在は地域の発展に不可欠であると感じました。もっともっと、そうしたリーダーが増えることが必要であると考えさせられました。

 

COYOTEについて

次に、今後、日本で門川さんが取り組もうとされているCOYOTEについてお話をお伺いしました。COYOTEはチャラテナンゴで共に活動した関係性のある生産者のコーヒーを買い付け、ラウルさんの輸出業者を通して輸入し、日本で販売するという取り組みです。それぞれの生産者のストーリーをどれだけ消費者に伝えられるか、COYOTEでの挑戦が始まります。(ちなみにCOYOTEは「中間搾取業者」のことを意味します。あえて皮肉ってその名前を自分たちの事業の名前にされています。)

 

エルサルバドルのコーヒーを日本人に紹介するセミナーを神保町のGlitchで実施(右が門川さん)

 

安価なコーヒーが当たり前?(スペシャルティコーヒーと日本)

このCOYOTEで販売するコーヒーはスペシャルティコーヒーと呼ばれ、徹底した品質管理のもと生産された独特な風味を持つコーヒーです。スペシャルティコーヒーの中でも最高品質のものの需要は高く、専門店などで取り扱われています。しかし、基本的な品質のベースが高いエルサルバドルでも、最高品質のものは区角や精製処理など限られたロットでしか作れることが難しいそうです。それゆえに、スペシャルティコーヒーの生産が比較的多いエルサルバドルのいい農園においても、ロースペシャルティ(スペシャルティコーヒーの中では低いランクのもの)が占める割合は多くなっています。ロースペシャルティの価格や顧客が生産者の収入のベースとなるため、門川さんは最高品質のものに加えてロースペシャルティを継続的に買い、適正な価格で売れるビジネスを作ることを目指されています。

しかし、安価なコーヒーに慣れ親しんでいる多くの日本人は、COYOTEの販売する適正価格のコーヒーに多少の抵抗を感じてしまうかもしれません。私たちが価格の高さに驚く分が、本来生産者に支払われるべき対価に相当します。コーヒー栽培の難しさや生産者のストーリー、サスティナブルの重要性を訴えることで適正価格のコーヒーを購入する人がどれだけ増えるのでしょうか。私たちが何気なく飲むコーヒーがサスティナブルなものである状態が理想ですが、簡単には実現しそうにありません。

それでも、門川さんはロースペシャルティコーヒーに可能性を感じていらっしゃいます。なぜなら、その味は多くの日本人が好むものだからです。最高品質のものは味や風味の個性が強い一方、エルサルバドルで生産されるロースペシャリティのものは個性や酸が強くありません。また、クリーンでしっかりとして甘さがあるものが多く、エルサルバドルの特徴であるバランスの良さを兼ね備えた好き嫌いが分かれにくい高品質なコーヒーであるようです。このような日本人好みのコーヒーは、価格の障壁を越えて日本で受け入れられる可能性を秘めています。

 

コーヒー産業の未来

お話の中で、コーヒーの未来についてお伺いしてみました。門川さんによると、コーヒーを作る生産者にとって、コーヒーを作るコストを下回るような買い付けが行われることもあるようです。つまりコーヒー産業は未だ、生産者より消費者や中間業者に優しい市場であるようです。

ではどうしたら良いか、市場の仕組みを変えるにあたり「貧しい生産者を援助するために消費するというやり方は持続しない」と門川さんは語ります。品質に応じた価格での取り引き(ビジネス)が当たり前になり、その利益が生産者や生産地域に還元される仕組みこそが必要だということです。COYOTEの事業は、その循環の中で生産されたコーヒーを毎日飲めるような日々を実現するきっかけになるのではないでしょうか。私はこの事業をきっかけに、コーヒーが適正価格で取り引きされる仕組みや認識が広く拡大して欲しいと強く感じました。

 

最後に

今回の門川さんのお話から、貧しい人々を生まないような仕組みを作るという考え方を学びました。私はこれまで、貧しい人々を救うためにどのような援助をすべきかとばかり考えていましたが、今回、公正なビジネスを通じた現地生産者の支援という形を知り新しい視点を得ることができたと思います。また、品質に応じた価格をつけるというスペシャリティコーヒーの市場が拡大し始めたことで、適正価格に対する人々の認識が少しずつ変化していくのではないかと感じました。

今回は門川さんから、コーヒーの栽培・輸出・消費、またコーヒー産業の現状や今後の展望に至るまで詳しくお話いただきました。

お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

 

オンラインで行われたインタビューの様子

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