「サステイナブル コーヒーで世界を変える」 José. 川島 良彰氏インタビュー

昨年に引き続き、お話をお伺いした(株)ミカフェートの代表取締役であるコーヒーハンター José. 川島 良彰さん

灰原梨華(3年)、池上雪江(3年)、畑野日向子(3年)

 10月5日の島田ゼミでは神保町に本社のある(株)ミカフェートの代表取締役であるコーヒーハンター José. 川島 良彰さんにお話をお伺いしました。川島さんは今回のセミナーのなかで「消費者がコーヒーの現状に興味を持ち、知ることが重要だ」というお話をされていました。今回は、川島さんにお伺いした、コーヒーを取り巻く世界の現状を皆様にもお伝えしたいと思います。

コーヒーの概要

コーヒーにはアラビカ種とロブスタ種の二種類があります。アラビカ種は一般的な「おいしい」コーヒーです。一方でロブスタ種はカフェインが多く、癖のある味です。そのため、価格が安く、主にインスタントや缶コーヒーに使われ、またアラビカ種のブレンドの増量剤にも利用されています。近年需要が増加傾向にあります。コーヒーは苗を植えてから3年で収穫出来る作物です。そして数少ない日陰で育つ作物です。ですから森林伐採をする必要がなく、環境に優しい作物です。

一方で生育環境が麻薬と似ています。各国で麻薬栽培を止めてコーヒーで自立するプロジェクトが始まっていますが、国際相場が下がってしまうと、リスクはありますが販売価格の良い麻薬栽培に戻ってしてしまう農家が出てくる可能性があります。

コーヒーは石油に次ぎ大きな産業で、世界で生産者のみで約2500万世帯いるとされています。しかし、コーヒーの価格はなかなか安定せず、そこから貧困が生まれている事実もあります。実はコーヒーを生産している人々はあまりコーヒーを飲みません。例外的にブラジルは生産量世界第1位ですが、消費も世界第2位です。また、あまり知られていませんが日本は世界第4位のコーヒー消費大国です。

コーヒーを取り巻く問題

コーヒーは石油に次ぎ大きな産業で、生産者のみで約2500万世帯いるとされています。しかし、そんなコーヒーの価格はなかなか安定しません。8~9年周期で価格が高騰します。その原因としてコーヒー生産量が世界第一位のブラジルでの不作があります。しかし、近年ではそれだけでなく投機により、コーヒーの価格が高騰することもあります。

このコーヒーの高騰は何が問題なのでしょうか。コーヒーの価格が高騰すると、多くの生産者が増産したり、新たにコーヒー栽培を始めたりします。その資金調達のために家を売り払ったり、借金したりする人も出てくるでしょう。しかし、コーヒーは先述したように、三年たたないと収穫出来ません(栗と一緒ですね)。三年後には供給過多で価格は暴落してしまいます。価格高騰時に生産を始めた農家はコーヒーで儲けることが出来ず大損をしてしまうのです。近年の投機による意図的な値段高騰はこれを助長してしまい、悪い循環を生んでしまいます。

実はこのようにコーヒー価格は大きく変動していますが、日本ではあまり報道されず、この事実を知っている人はわずかです。その点も問題なのです。日本ではコーヒー商品が一定価格で販売されています。先物市場でコーヒーが安い時も高い時も販売価格は一定です。コーヒー商品の販売企業は利用割合を先物市場価格の上下でロブスタ種の利用割合を増減し、一定の大きな利益を保っています。

日本で安いコーヒーが飲めている背後には貧困に苦しむ生産者、その一方で大儲けする企業がある現状をもっと知っていかなければならないと思います。ただし問題は、生産国にもあります。価格が高騰すると、契約を守らず他に高値で売ってしまう生産者や農協があります。それをやられると、買い支えようとして努力してきた消費国のコーヒー会社は、自分の顧客との契約を守れず窮地に追い込まれます。

また、コーヒーの価格の乱高下は情勢にも影響あります。やはり、コーヒーが売れず、経済不安がある時に国内情勢が悪化することが少なくありません。アンゴラでは1973年にコーヒー生産量世界第3位の国でした。その後内戦が発生し、今やコーヒー生産量世界35位にまで下がってしまいました。エルサルバドルでは1975年からの3年間コーヒー生産量世界第3位でした。しかし、1977年のコーヒー価格の急上昇と、1978年のコーヒー価格の急下降があり、貧富の差が激しくなりました。それは1979年からの内戦の勃発を助長したと考えられます。エルサルバドルでは内戦の影響で、生産量が10分の1程度に減少しました。

フェアトレードとその問題点

これまでコーヒーの生み出す問題に少し触れました。それを解決策として「フェアトレードコーヒー」が近年注目されています。しかし、実際どこまでフェアなトレードがされているのかご存じでしょうか。このフェアトレードには必ずしもフェアとは言えない側面があります。

まずは、品質と値段です。ご覧になったことがあると思いますが、フェアトレードコーヒーは他のコーヒーより高値で販売されています。しかし、その中身のコーヒーは必ずしも品質の高い豆ではありません。品質に対する対価としての値段ではないフェアトレードコーヒーは、単なるチャリティー活動と変わりありません。

また、フェアトレードは、農協に付加される認証です。ですから農協が、消費国に販売し代金は農協に入金され直接生産者に支払われません。農協は、精選加工費や管理費、そして農協の利益を差し引いて生産者に支払います。もちろん公正にマネージメントしている農協も数多くありますが、上層部がそのお金をすべて自分の懐に入れてしまうことも理論上可能です。フェアトレードコーヒーを買ったからといって、必ずしも末端のコーヒー生産者にまで支援が行き渡るわけではないし、消費国で搾取されているというのは一方的な見方です。

普段何気なく飲んでいるコーヒーにはこのような背景が存在しています。途上国問題は非常に遠い国で起きている様な気がして実感を持てる方は少ないと思います。しかしコーヒーの裏側にはすぐに途上国問題が直結しているのです。

コーヒーとSDGs

昨今、SDGsの重要性は世間に広く普及しています。SDGssのロゴを見かける場面も増えたのではないかと思います。コーヒーはSDGsの17の目標全てに関係しており、川島さんもコーヒーにかかわるSDGsの活動をされています。次にそうした活動をいくつかをご紹介いただきました。

フェダール農園のいつも明るく元気なコーヒーチームのメンバー(写真提供:川島良彰さん)

タイ: アヘンからコーヒーへ

まずひとつ目は、タイ北部のドイトゥン開発プロジェクトです。タイのプミポン国王の母、シーナカリン王太后が設立したメ―ファール財団によるプロジェクトで、ドイトゥン地区の貧困に根差した悪循環からの脱却を目指しています。

ドイトゥン地区で伝統的に行われるアヘン栽培によって引き起こされる貧困と森林破壊は深刻なものでした。これらを改善するために用いられた手段の一つが、森林復活とコーヒー豆やマカダミアナッツなど、アヘンの代わりとなる作物の栽培です。

 川島さんは2014年から財団のアドバイザーとして、より効率的で品質の高いコーヒーを生産するための技術指導をされています。川島さんが技術指導を行ったドイトゥンの村の一つに、アカ族のパヒ村があります。かつては村の全員がアヘン栽培をしていた地域でしたが、今ではアヘン栽培は完全になくなり、村人全員がコーヒー栽培で生計を立てられるようになったそうです。

また、タイとミャンマーの国境には国境警備隊によるアーミーカフェがあり、軍人がコーヒーを入れてくれます。このことを、「まさしく平和の象徴だ」と川島さんは語ります。

ルワンダ: 「涙のコーヒー」からの脱却

二つ目は、ルワンダで行われているJICAのコーヒーバリューチェーン強化プロジェクトです。平和と経済は切り離せない関係にあります。そのため、このプロジェクトではコーヒー栽培や加工技術の指導を行い、コーヒーでルワンダの経済を安定させることで平和を保つことを目的としています。

ルワンダのコーヒーは、ツチ族大量虐殺という悲しい歴史によって皮肉にも「涙のコーヒー」として注目を集めています。しかし川島さんは、このプロジェクトでコーヒー栽培の技術指導を行うことで、品質の良いコーヒーを作りたい。そしてこの名前から脱却し、おいしいから買ってもらえるルワンダコーヒーを目指さなくてはならないとおっしゃいました。

コロンビア: コーヒーと障がい者支援

三つめはコロンビアのフェダール農園での技術指導です。フェダール農園では、施肥や収穫などコーヒー栽培のほとんどの作業を障がい者が担っています。川島さんは、この農園で障がい者への技術指導をされています(明治大学SDGsコーヒーはこのフェダール農園の豆を使ったコーヒーです)。

川島さんはこの活動でも、「かわいそうな障がい者が作ったコーヒーだから買ってあげようではなく、おいしいから買ってもらえるコーヒーを作るべきだ」とおっしゃいました。ルワンダでの活動のお話にもありましたが、改めてコーヒーにおける「おいしい」という価値の重要性を考えさせられます。

川島さんは日本でも障がい者への支援として、コーヒーの抽出指導を行っておられます。この活動によって、障がい者を雇用したカフェが広まり、健常者と障がい者がコーヒーを通じて繋がりあうことができる雰囲気が生まれていったそうです。また、今年五月には世界初の障がい者によるコーヒー抽出コンテストを実施しました。

川島さんは、「10年後には世界大会をやりたい。そして、障がい者の人たちがコーヒーで就労できるような世界を作りたい。」と強く語っておられました。

実際に今年五月の大会は、様々な企業からの賛同、協力のもとで大成功しており、世界からも注目を集めています。今回ご紹介いただいた活動以外にも、コーヒーにかかわるSDGsの活動は世界中で行われています。コーヒー産業は、様々な角度からSDGsに取り組むことのできる産業であり、その可能性を大いに感じます。

おわりに

今回、コーヒー産業がこれまでどんな経緯を辿ってきたのか、それによって現在どのような産業分野であるのか、今後サステイナブルな産業にしていくにはどうするべきなのか、などについてお話を伺いました。

CSRやSDGsへ取り組みやすいはずのコーヒー業界の取り組みがなかなか進まない背景には、生産国が抱える労働者不足や政情不安などの多くの課題がある一方で、需要や供給だけではない投機マネーによるコーヒーの価格変動、50年変化のないコーヒーの国際相場、フェアトレードコーヒーの消費量の停滞など、はじめに述べたコーヒーならではの特徴に影響された課題が垣間見えました。

先進国の上から目線のチャリティーではなく、品質に対価を支払う市場を作り上げ、コーヒーそのものの価値をあげる必要性があると川島さんはおっしゃいます。生産国が消費者のマーケットを知る努力をすることはもちろん、私たち消費者も生産国の現状を積極的に学んでいくことが大切で、その第一歩としてまずは興味を持って欲しいと語りました。

消費者が味に敏感になり、「美味しい」「不味い」を評価する。そしてこの一声がコーヒーの価値をあげ、サステイナブルなコーヒーの普及に繋がることを川島さんはおっしゃいます。サステイナブルな産業を継続していくためにも、次世代を担う若者の行動や主張が重要であることを学び、今後もさらに勉強していく必要があると思いました。

昨年に引き続き、川島さんが代表取締役社長を務めるミカフェートにご協力いただき、神保町の街づくりとSDGsに取り組んだコーヒーの新商品を島田ゼミでは現在企画中です。今回、お話されたことを踏まえ、より良い商品を開発できるようにゼミ生一丸となって頑張っていきます。販売などを含めた広報活動についても今後こちらのホームページにて発信していくので、是非ご期待ください。

最後になりましたが、川島さん、お忙しい中お越しいただき、本当にありがとうございました。

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