「敷居の低い音楽喫茶を目指したい」【前編】―音楽喫茶 “On a slow boat to …” 店主 白澤茂稔さん インタビュー
4年 中久喜志穂
昔ながらの老舗の喫茶店が多い神保町。そんな中、神田猿楽町に2021年3月にオープンしたのが、音楽喫茶“On a slow boat to…”です。
店名の由来はアメリカのジャズスタンダード「On a slow boat to China」、村上春樹氏の短編集「中国行きのスロウ・ボート」から。ゆっくりとした時間を過ごしてほしいとの思いから、“…”には“行先はあなた次第”という意味を込めているそうです。
私たちは新しい神保町の魅力を伝えたいという思いから、なかでも新しい個人店である“On a slow boat to…”の店主、白澤茂稔(しらさわしげとし)さんにインタビューをさせていただきました。
↑インタビューは動画(3分54秒)でもご覧いただけます
音楽の裾野を拡げる、敷居の低い音楽喫茶
ジャズが多めではあるものの、ロックやポップス、日本のシティポップなど様々な音楽が流れる店内。「中島みゆきからKISSまで」を掲げ、音楽喫茶という位置づけで幅広いジャンルの音楽が流れています。
ジャズ喫茶というと、音を立てずに静かに音楽を楽しむ場所、といった敷居が高そうなイメージもありますが、白澤さんが目指しているのは「敷居の低い音楽喫茶」だそうです。気軽なおしゃべりも受け入れながら、ジャンルを絞らずに音楽を流すことで、多くの人の音楽の裾野を拡げたいと考えているそうです。
お客さんとは音楽の話で盛り上がることもしばしば。お客さんから好きなレコードのリクエストにこたえる機会も多いといいます。なかにはレコードを持ち込んでリクエストする方や、プレイヤーが壊れてしまったなどの理由で自宅では聴けなくなってしまったレコードをお店にキープしている方もいるのだとか。
音楽好きの白澤さんは、このようなお客さんとのコミュニケーションを楽しんでいるとのことです。
もちろん音楽好きのお客さんだけでなく、珈琲好きの方など年代を問わず幅広い客層の方が足を運ばれているそうで、オープン当初から少しずつ常連のお客さんも増えてきたといいます。静かに本を読む若い女性や、夜にはお酒を飲みながら仕事のリフレッシュする方など、多くの方が思い思いにゆったりとした時間を過ごしているそうです。
神保町にお店を構えることについて
山口県出身の白澤さんは、上京し、神保町・御茶ノ水で浪人生時代を過ごしたことから街への思い入れがあるといいます。神保町には、世界でも類を見ない古書店街や、中古レコード店、ギャラリーなどが多数存在しており、多くの文化が集積している場所です。白澤さんは、かつて“日本のカルチェ・ラタン”と呼ばれた神保町・御茶ノ水界隈が以前から大好きだったそうです。
しかし、時代の流れとともに新しい建物やチェーン店などが増えたことで、神保町の古き良き街並みが消えつつあるように感じていたそうです。そこで、神保町にこだわりのある個人店をオープンさせたいと考えました。
老舗喫茶店の多い神田神保町エリアの中で、白澤さんは「うちはうちのやり方で落ち着けるお店を目指したい」と語ります。古い建物の床などを一部残した店内や、ヴィンテージのスピーカーから流れるレコード、イギリスのアンティーク家具、入口すぐに置いてある選書された本箱、食器類、自家焙煎の珈琲や和紅茶など、様々なところにこだわりが込められています。
白澤さんはこのようなこだわりのどこかに来店するきっかけを見つけてほしいといいます。音楽、珈琲、紅茶、本、インテリアなど、どんな人でも興味を惹かれるポイントがきっとあるはずです。例えば、音楽にはそれほど興味はないけれどおいしい珈琲を飲みたい、珈琲は苦手だけれど和紅茶やスイーツを楽しみたい、面白そうな本が置いてある、落ち着いた雰囲気を楽しみたいなど、きっかけは何でもいいとのことです。
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実は私自身、はじめは音楽喫茶というと敷居の高いようなイメージがありました。
しかし、白澤さんの「敷居の低い音楽喫茶」を目指しているとのお話の通り、落ち着いた店内でありながら、気軽な雰囲気で音楽やおいしい珈琲を楽しむことができました。そして、そのような雰囲気は白澤さんのお店への大きなこだわりが作り上げているものだと、ひしひしと感じました。
珈琲へのこだわりや、お店の今後についてもお話を伺ったので、続きは【後編】をお読みください!