エチオピア・森のコーヒープロジェクトの取り組み

インタビューNo.1 :

JICA三浦真理さん、国際耕種(株)吉倉利英さん

中山優衣(3年)
渋谷輔(3年)

エチオピアのベレテゲラ森林地域で住民の方々と議論する三浦さん

6月9日のゼミでは学生によるインタビュー第1回目として、JICAがエチオピアで取り組む「森のコーヒー」についてオンラインでお話をお伺いしました。お話しいただいたのは、三浦真理さん(国際協力機構 (JICA)地球環境部 森林・自然環境グループ・自然環境第二チーム 課長補佐)と吉倉利英さん(国際耕種(株)主任研究員)です。三浦さんは明治大学・農学部の先輩でもあります。

三浦真理さん: JICAの自然環境分野の取り組みと、森のコーヒーについて

三浦さんからは、特に森林に焦点を当てながら途上国の自然環境問題についてお話しいただき、その上で、国際協力機構(JICA)とUCC上島珈琲株式会社がエチオピアで進めるこの「森のコーヒー」プロジェクトについて概略をお伺いしました。

認証によって森林コーヒーに付加価値を

三浦さんによると、このプロジェクトは深刻化するエチオピアの天然林の森林破壊を暗い場所でも育つ「陰樹」であるコーヒーを生産・販売することにより防ごうとしているとのことです。住民は、政府と協力して森林保全を行い、その代わりに森林に自生する野生のコーヒーから豆を採取することを許可されています。

そして、さらにこの森林の木陰で育ったコーヒーから伝統的な方法でできた豆を「認証」することで「森林コーヒー」として付加価値を与え、農家の収入を増加させる取り組みをされているとのことでした。こうすることにより、農家は農地を確保するために森林を開拓する必要がなくなり森林が守られるという仕組みとのことです。

三浦さんは、森林は木材や食料、災害リスクの軽減など、人間が生きる上で必要不可欠な財とサービスを与えるとも強調されました。さらに、森林破壊が進み、土地がやせてしまうと、生活に必要な糧を得るために遠くの森に行かなければならないなど、子供や女性はより労働を強いられ、子供の教育や女性の社会進出の機会が奪われることになってしまい、深刻化すれば、人々は生きていくのが困難になります。その結果、テロ組織への加入や、難民化にもつながりかねないと述べられました。

 

自然環境と貧困を同時に取り組むことが大切

三浦さんによるとこれに対し、JICAは大幅な森林の復活や、先進国第二位の森林率を誇る国としての豊富な経験を生かし、持続的な森林管理をモットーに衛星情報を使った森林データの提供するなどエチオピア以外でも世界的に森林保全支援を行っているとのことでした。

お話を通じて、「自然環境と貧困に同時に取り組むことが大切」との三浦さんの言葉がとても印象的でした。

 

吉倉利英さん: エチオピアにおける現地の活動と、日本企業との連携を通じて

オンラインで行われたインタビューの様子

続いて吉倉さんからは現地のエチオピアに駐在して活動に参加されていた経験に基づいて森林プロジェクトについて現地や企業との連携など実施面とプロジェクト終了後の自立発展性についてお話しを伺いました。

コーヒーを巡る様々な工程と密接なコミュニケーションの大切さ

吉倉さんによると現地側と日本企業の双方と密接なコミュニケーションを取ることが非常に重要だとことでした。これは、一口にコーヒーを輸出するといっても実際には収穫から加工、保存、管理、輸送など様々な工程を含むからとのことです。また付加価値として認証を得るということになると加えて研修や品質の維持なども必要になります。様々な人の尽力によって成り立っている一方で消費者に届くまでの過程を管理することが困難になってきます。

また企業との関係についても、管理や品質、納期が守られないと信頼に関する部分や、ビジネスであるという特性上、企業側の利益が見込めなくなってしまい、プロジェクトにも影響が出る可能性があります。そこで約2千世帯もの農民の管理状況の把握や品質管理の効率化を図るためタブレットを導入するなど工夫をしたそうです。そうすることにより、なるべく広く深く現地の方との関係を構築できる基礎を作り、また実際に企業の方やコーヒーの専門家を現地に招へいしてコーヒーの生産や品質、管理状況などの情報を共有することによって信頼に基づく関係を構築することができたとのことでした。加えて、企業の方に現地の方ともコミュニケーションをとってもらうことで生産者と輸入企業の直接的な関係づくりや生産ストーリーの共有に一助できたそうです。

プロジェクトの終了後を見据えて

オロミア州ジンマのホテルでのコーヒーセレモニー

また、プロジェクト終了後の自立発展可能性について企業側がどのようにしてトレーサビリティを確保するか、どのように信頼性を担保していくか、新しい販路を獲得するにはどうしたらいかという問題がありました。これも、先述のように企業と現地を直接結びつけることによって改善できる部分や現地側にも様々に問題意識をもって改善しようという意識が見られたそうです。販路の開拓についても森林コーヒーの価値をシンポジウムなどで発信し、東京でもコーヒーに関する展示会なども行われており、少しずつ興味を持つ事業者も増加しているとのことでした。

最後に、吉倉さんの「学生にはコーヒーがどこから来てどう作られているのか知って欲しい」という言葉が印象的でした。吉倉さんのお言葉通りコーヒー一杯には様々な努力や問題が隠れており、私たちが少し興味を持つだけで生産者の利益になり、同時に企業や国へ説明を求める力になるのではないかと考えました。

今後に向けて

「森林コーヒー」は日本での認知度はまだまだですが、世界でのニーズは高まってきています。伝統的な栽培方法の森林コーヒーを認証し付加価値を与えるこのプロジェクトは、森林保護と貧困削減の両立に大きく貢献していると感じさせられました。日本での「森林コーヒー」への関心を高めるためにも森林コーヒーを目にした際はぜひ手に取って頂けたらと思います。

三浦さん、吉倉さん、お忙しい中、貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。

(講師略歴)
三浦真理さん
2000年 明治大学農学部農芸化学科卒 2005年JICA入構(社会人採用)。大阪国際センター、農村開発部、インドネシア事務所、オーストラリア国立大学留学、外務省国際協力局出向。現在、国際協力機構 (JICA)地球環境部 森林・自然環境グループ・自然環境第二チーム 課長補佐。

吉倉利英さん
国際耕種(こくさいこうしゅ)株式会社・主任研究員、発展途上国での開発コンサルタントとして、JICA(国際協力機構)の委託による環境保全や農村開発に関わる技術協力プロジェクトに従事、1997年に大学卒業後、青年海外協力隊派遣をきっかけに、国際協力事業に関わり、これまでにエチオピア、マラウイ、インドネシアへJICA専門家や企画調査員として赴任、2017年より現職。2017年に早稲田大学にて人間科学博士号を取得。

(現地の写真2枚については、三浦さんと吉浦さんからご提供いただきました)。

by
関連記事