インタビューNo.4:「本当に美味しくフェアなコーヒーとは」(コーヒーハンター川島良彰さん、株式会社ミカフェート代表取締役社長)

森 新奈(3年)

フェダール財団では、敷地内の学校を卒業すると、農業と手工業に分かれて働きます。いつも明るく元気なコーヒーチームのメンバーです(写真提供:川島良彰さん)

9月29日、コーヒーハンターの川島良彰さんにお忙しいスケジュールの合間を縫って島田ゼミにお越しいただき、インタビューを実施させていただきました。川島さんは、「本当のコーヒーのおいしさと楽しさをより多くの人々に知って欲しい」との思いで創業された株式会社ミカフェート(Mi Cafeto)の代表取締役社長です。また、タイ王室メーファールアン財団コーヒーアドバイザーや日本サステイナブルコーヒー協会の理事長を務められるなど、生産国と消費国の架け橋となりサステイナブルで美味しいコーヒーを作るために様々な活動をされています。

今回は、そんな川島さんに「美味しいコーヒーを広め、継続させていくために進んできた道のり」や「本当に美味しくフェアなコーヒーのためにするべきこと」についてお話を伺いました。最初になぜコーヒーに関わるようになられたのか?また、貧困問題を解決したいと思うようになられたきっかけはなんだったのかからお伺いしました。

 

明治大学駿河台キャンパスで行われたゼミ。新型コロナ対策のため、ソーシャルディスタンスを確保してお話をお伺いしました。

 

18歳からエルサルバドルへ渡りコーヒーを学ぶ

川島さんは珈琲焙煎卸業を営むご実家で育ち、小学生の頃にはすでに「将来はコーヒー屋になる」と決められていたそうです。その後、高校卒業と同時に18歳でエルサルバドルへ渡り、国立コーヒー研究所に入所されました。そこでコーヒーについて様々なことを学ばれました。

川島さんによると、この1975年頃はコーヒーにとって大きなターニングポイントの時期だったとのことです。世界最大の生産国ブラジルの霜害の影響で、1ポンドあたり45セントであったコーヒー価格が急騰したり、世界のコーヒー生産国トップ3に入っていたアフリカのアンゴラで激しい内戦が勃発したりするといった事が起きました。それにより現在コーヒー豆生産量1位はブラジル、2位はベトナムでアンゴラは36位にまで落ちてしまっています。また、同時期にエルサルバドルでも内戦が起きたり、学生デモが活発化したりし、川島さんは銃弾が飛び交うかなり危険な環境の中で学び、生活されたそうです。

このエルサルバドルや、その後赴任されたジャマイカなどでコーヒーの生産農家の人たちと触れ合う中で、コーヒーを通じてその人たちの生活を良くすることができないかと考えるようになったことが貧困問題に取り組むきっかけになったとのことです。

 

川島さんが指導されているメーファールアン財団のコーヒーチーム。少数民族の人達ですが、タイ語を話せます。彼らが、習得した技術を、村人達に自分達の言葉で指導しています (写真提供:川島良彰さん)

 

美味しいコーヒーを広めるためにタイへ

事前にミカフェートのHPを見て自分なりにミカフェートの取り組みを知ろうとしていたのですが、その中でタイのドイ トゥン農園コロンビアのフェダール農園での取り組みに特に関心を持ちました。タイでは山岳地帯に住む民族の人たちとコーヒーの生産に取り組んでおられます。また、コロンビアでは民間の障がい者施設が取り組んでいるコーヒー栽培に、品質向上のためのアドバイスをしながら日本での市場作りをしています。

私は、世界中に多数のコーヒー農園がある中で、どのように訪問する農園を選んでおられるか気になるようになっていました。そこで、どうして川島さんがタイの「ドイ トゥン」、コロンビアの「フェダール」に思い入れがあるのか、どんな苦労が現場ではあるのかを次に伺いました。

川島さんは、環境と人権を守りながら本当に美味しいコーヒーをつくるため、いつも自らが現地へ行き、志のある農園と直に接し、パートーナーとして技術指導したり、彼らの作ったコーヒーの市場作りをして来られました。

特に、タイの貧しい少数民族が住むアヘンの栽培地帯(ゴールデン・トライアングル)をコーヒーの生産地へと生まれ変わらせたお話はすごく印象的でした。かつてタイではアヘンによる麻薬栽培が盛んにおこなわれており、太陽の光確保のため頻繁に行われた森林伐採や焼き畑農業が洪水などの深刻な環境問題を引き起こしていました。

タイ王室のメーファールアン財団は問題解決のために様々な取り組みを行い、少数民族に麻薬栽培以外の収入の手段を得るためにコーヒー生産にも取り組みました。しかし、他の取り組みはうまくいっても、どうしてもコーヒー生産だけは上手くいかなかったそうです。

そこでメーファールアン財団がコーヒーの生産を軌道に乗せるために指導を仰いだのが川島さんでした。年に数回は現地に通い、それまで川島さんが、世界各国で習得した技術をタイの土地や気候、習慣に合った方法に変更し、苗づくりという1から指導する取り組みを行ったそうです。

初めは、「日本にはコーヒーがないのに日本人のお前に俺たちが教えられるのか!」と言われ、なかなか現地の人々に受け入れられず苦労がありました。しかし、日本人であり世界中を飛び回る川島さんは「世界中のコーヒーを知っている」「消費国の市場を知っている」という強みを持っています。その多角的な視点を強みとしながら、自分自身が実際にやって見せる方法で指導をされました。

こうして川島さんは自らの強みを生かし徐々に周囲から理解を得てパートナーになっていったそうです。そのおかげで今ではタイのコーヒーは東南アジアで有数のものとなり、高品質な美味しいコーヒーを提供するミカフェートでも取り扱える高い品質へと向上することができているようです。

ゼミ生は対面とオンラインで参加するハイブリット型で実施。

 

川島さんの考える本当にフェアなコーヒーとは ― 美味しいから買いたいフェアトレードにしないと意味がない

島田ゼミでは活動の1つとして、本当にフェアな方法でのコーヒー取引について調べています。その中で、よく耳にするフェアトレードは、公正な取引ができているのか、本当に発展途上国の農園に貢献できているのかについて疑問点、問題点が浮かんできました。そこで、川島さんの考えるフェアなコーヒーについてお話を伺いました。

「フェアトレードというと何かいい感じに聞こえるかもしれないけれど・・・」そう言いながら、川島さんはフェアトレードの問題点を挙げられました。

まず、コーヒーの国際市場価格は長年に渡り低迷しています。しかしフェアトレードコーヒーには、国際価格を大きく上回る最低取引価格が設定されていますが、それは品質には連動していません。そうなると品質の良いフェアトレードコーヒーかチャリティーで買ってくれる人には、フェアトレード価格で売れますが、それ以外は国際価格でしか売れないという問題が発生します。また、フェアトレード認証のロゴをつけるにはお金を払う必要があります。例えば、国際フェアトレード認証を取得するためには、年間総売上高に応じた初回認証料、ライセンス料、年間ライセンス認証料が発生します。個人経営のコーヒー屋さんやカフェにとっては重荷となりうるでしょう。

さらに、フェアトレード認証は個人ではなく農協に与えられます。そのため、農協が利益を得て農家には全くフェアでない賃金が与えられる搾取が発生しているケースもあります。また、頑張ってコーヒーで利益を上げ耕作面積を広げて人を雇うようになると、フェアトレードの対象農家から外されてしまうため、生産者のやる気を無くさせてしまう問題も起こっています。

次に、今のコーヒー市場の問題点について伺いました。現在、多くのコーヒーが非常に安い価格で取引され、世界中の“コーヒーを買い取る側”の儲けは大きいそうです。日本のコーヒーショップやレストランでも、コーヒーの原価率は非常に低いことが多く、コーヒーの原価率は10%、高級なものだと30%ほど、そしてほとんどがなんと3%以下で扱われることもあるそうです。

かつてはコーヒーと共にラーメンがほぼ同じ価格で並んでいました。そのラーメンは、いろいろな工夫をして付加価値を付け、実際においしくして今は高くても売れるようになってきました。でもコーヒーは今も昔もあまり値段が変わらず、言葉遊びの付加価値ばかりで品質に応じて値段がつけられるという工夫もまだ十分でないと川島さんはおっしゃいます。

この話を聞きながら私たちにできることはなんだろうかと最後に聞いてみました。

川島さんは、値段を下げるために作られた安いコーヒーはとってもまずいとおっしゃっていました。安いコーヒーしか取引されず、安いコーヒーしか買われない現状では貧しい農家はますます貧しくなるだけです。それでは美味しいコーヒーを作る良い農家を増やすことが難しく、私たちも美味しいコーヒーを飲める機会を増やすこともできません。美味しくてフェアなコーヒーを広めるためには、良い農園が作っていて、原価率が高く、安くはなくても美味しいから買いたいと思ってもらえるようなコーヒーを扱うことが大切です。生産者も不味いコーヒーを作ろうとしているのではありません。おいしいコーヒーを作りたいが、払ってくれる金額が低すぎるから、肥料も買えないし管理も疎かになってしまい品質は低下します。

私たちができることは、そういった美味しいコーヒーを飲むこと、不味いコーヒーが出されたら思いっきりまずいと言うだけでもコーヒーの市場は良くなっていく、品質が重視されるようになるのではないかと提案されました。コーヒーショップやレストラン、ホテルの経営者は、どんな不味いコーヒーをお客に飲ませているのか知らない場合が多いのです。それを気付かせることが、消費者ができる最大で一番効果的な方法です。そして経営者が、もうもう少し原価率を上げて、おいしいコーヒーを提供しようと決心したら世界は動き始めます。

 

わりに

今回の川島さんのお話は、私たちがゼミで行っているフェアで持続可能な取引を通じてコーヒーを販売するプロジェクトに役立つ情報が盛りだくさんでした。正直に言うと私は今まで、フェアトレードコーヒーや美味しさにこだわったコーヒーは高価だからと安いコーヒーを選びがちでした。しかし、これからはできる限り、安いから買うのではなく、少し高くても環境に配慮し、美味しいコーヒーをつくる農園のコーヒーを適正価格で買ってみようと考えています。ゼミの活動でも、安いから買うのではなく、美味しいから買おうと思ってもらえるような良い農園から生まれたコーヒーを広めていけたらいいなと感じます。

また、このセミナーをきっかけに私たちはミカフェートとタイアップして明治大学SDGsコーヒーのプロジェクトを開始しました。今回はお話を伺ったけれど記事には掲載しなかったコロンビアのフェダール農園のコーヒーを使うものです。今後、コロンビア・フェダール農園と明治大学SDGsコーヒーについてはHPで紹介していければと思っています。ご期待ください。

 

 

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